『IBDとしゃっくり』
IBDに限らず誰もがしゃっくりは起きますよね。ただし、IBDのしゃっくりは病態悪化のサインの場合もあります。しゃっくりとお腹の関係は存外に深いです。
今回は地味にわずらわしいしゃっくりの仕組みと対処法についてお話していきたいと思います。
そもそも『しゃっくり』ってなんなん?
しゃっくりは、なんらかの理由で横隔膜(胸とお腹を仕切る筋肉)が急速に縮む時に声帯が閉じることで、息を吸うことが阻害される現象のことです。
ヒック!ってなったとき、胸が張り姿勢がピンと反射的になりますよね。引きつるように。これが横隔膜がキュッ!と一気に縮んで息が入ってきた瞬間で声帯が閉じちゃった状態です。
横隔膜は呼吸を司る筋肉でできた膜で、これが縮むことで肺が広がり息を吸い込む力が発生します。
しかし、この横隔膜が通常の運動ではなく急激に収縮してしまうと、連動して声帯筋が収縮し声帯が閉じてしまいます。
すると肺には息が入らきらず、呼吸の途中で閉じるときに『ヒック』という音が出ます。
横隔膜への刺激が強いとき、横隔膜は痙攣を起こし、正常な運動ができなくなり、呼吸の中断が連続して起こってしまいます。
この現象を一般的に『しゃっくり』や『ひゃっくり』といい、医学的には『吃逆(きつぎゃく)』といいます。
神経がビックリして横隔膜がギュッ!ってなって声帯がヒック!です。
【ビックリして、ギュッ!となって、ヒック!】
この現象はすべてのライフステージでみられ、お腹の中の赤ちゃんもしゃっくりをします。
一般的に一過性のしゃっくりは『吃逆発作』と呼ばれ、48時間以内に治まります。
なんで刺激を受けると痙攣するの?
より仕組みを詳しく説明しますと、
しゃっくりは、なにかしらの理由で強い刺激を咽頭部が受けると、その刺激は『舌咽神経』を介して『延髄(えんずい)』内の『吃逆中枢』に伝えられます。『延髄』とは脳の神経の一部のことで、私たちの身体の運動を制御する働きをしています。
延髄の吃逆中枢は、『横隔神経』を通して横隔膜を収縮するように、『迷走神経』を通して声帯を閉じるように、と同時に命令を出します。
その結果、吸気運動(横隔膜の収縮)と声門閉鎖運動が同期して起こります。
しかし、単純な刺激で常に簡単にしゃっくりが起きるわけではありません。
延髄の吃逆中枢は、通常は『GABA(ギャバ)』と呼ばれる神経伝達物質により、しゃっくりが出ないよう脳から抑制を受けています。
この抑制よりも刺激が強い場合に、しゃっくりが起こるようになります。また、しゃっくりは一度起きると止まりにくいのも特徴です。
※◯◯神経とかたくさんでてきてよくわからないですよね。
単純に、呼吸をコントロールしている横隔膜が収縮すると肺に酸素が取り込まれ、横隔膜がリラックスすると肺から二酸化炭素が排出される。神経が刺激されこのリズムが乱れると横隔膜の痙攣と声門閉鎖、つまりしゃっくりが起きる、とだけ覚えておけば良いかと。
つまり、しゃっくりの正体は『神経反射』ということです。
なにかしらの理由の刺激って?どんなものがある?
しゃっくりが起こる原因に、明確な結論はでていないそうです。
ですがわかっていることも様々あり、GABAによる抑制よりも強い刺激として、物理的な刺激、飲酒や喫煙、睡眠導入剤や抗がん剤など一部の薬の副作用、そして強いストレスや興奮などの心因的要因が挙げられます。
また子どもは大人に比べて発達が未熟で、GABAによる抑制がきかず、しゃっくりが起こりやすいです。
・物理的な刺激
炭酸飲料、熱い・冷たい飲み物、慌てて食べるなどをしてしゃっくりになった、という経験は皆さんあるかと思います。
熱いもの・冷たいものは、横隔神経を刺激します。
胃に溜まったガスも横隔膜を圧迫して刺激になります。
・暴飲暴食や喫煙などの生活習慣
たとえば暴飲暴食による逆流性食道炎などで咽頭部に炎症かあったり、胃酸の逆流などがあると、鼻咽頭部への刺激となり、これが『舌咽神経』を介して延髄内の『吃逆中枢』に伝えられ、そこからの指令が『横隔神経と迷走神経』を経由して伝達されて、吸気運動(横隔膜の収縮)と声門閉鎖運動が同期して起こります。
先ほどの説明のおさらいですね。
※IBDの場合、胃腸痛があり、またお腹の動きが悪く腸閉塞気味になったりすると腹圧が高く横隔膜を圧迫しますし、吐き気などで咽頭も刺激され、しゃっくりが起こりやすいです。
もし、しゃっくりが以前よりも起きやすくなったと感じる場合、病態が悪化しはじめてるサインかもしれません。
・タバコの吸いすぎ
こちらも同様にで、しゃっくりが起きやすくなります。これは肺や喉が強く刺激され、その刺激が神経を介して脳に伝わり、同じように横隔神経と迷走神経を通して横隔膜の痙攣と声門閉鎖が引き起こされ、しゃっくりが起きます。
・心因性、未成熟
とりわけ子供によくみられる『大泣きしたあとのしゃっくり』。これは病気ではありませんので深刻な心配はありません。
大泣きしたときに引きつけのようにしゃっくりが起きてしまう原因は、笑いすぎ、泣きすぎ、大声を出しすぎることで喉や横隔膜が刺激され、同様のメカニズムで痙攣を起こし、しゃっくりが起きます。
子供は、GABAによる抑制が未成熟なため、大泣きしたときにしゃっくりが起こりやすいのです。
大人でも辛くて泣きすぎたら起こりますよね。心因性の場合はメンタルコントロールである程度は頻度を減らすことが可能です。大人と子供の違いは心の強さともいえますね。
※IBDはストレスの影響を大きく受けます。病態の増悪因子としてストレスによる影響は最も強いかもしれない、といえるくらいにはダイレクトにお腹にきます。
ストレスでお腹が痛くなったり、お腹の動きが悪くなったりしますと、そうした刺激がしゃっくりを招きます。悪循環。
お腹が張っててしゃっくりがおきると、吐き気も強くなり、ヒック!となった瞬間に胃から逆流しやすくなります。
つまり吐きます。
イレウス(腸閉塞)になるとこの地獄の連鎖ですね。
IBDとストレスとしゃっくり、切っても切れない関係ですね。
大人は子供と違いGABAによる抑制が働いていますが、しかし強烈なストレスが与えられた場合、大人でも脳がパニックを起こし、しゃっくりが起きてしまいます。
人によっては面接や発表や、激しく怒られたり、仕事で大きなミスをしてしまったときなど強い緊張を与えられることでしゃっくりが起きてしまうこともあります。
これは結構多くの方が悩んでいるかもしれません。
大事なときにいつもしゃっくりが起きてしまい、辛いし、恥ずかしいという声も耳にしますね。
しゃっくりというものは複数の要因が重なって起きる場合も多く、原因である痙攣は意識的に止めることが出来ないので、正常に呼吸ができない、話したくても話せない、食べられないという状態になります。困ったもんです。わずらわしい。
しゃっくりの止め方は?
しゃっくりの止め方にはいつかは方法があります。昔からある定説と、推奨されている科学的根拠のある対処法を併せて紹介していきます。
●昔からの定説の止め方
ある言葉を繰り返す、コップの反対側から水を飲む、驚かす、レモンをかじる、梅干しを食べる、息を止める、紙袋をあてる、胸を抑える、舌をひっぱる、など、様々な定説が民間療法としてありますが、間違いとは断言はできません。
ようは、しゃっくりを止めるためには横隔膜の痙攣を止めることが必要なだけで、結果として痙攣が止まるのであれば、たとえ意味不明と思われる行為でもどれも間違いではないということです。
意識的に止めることができない以上、様々な手法をとって自分に合った身体に刺激を与える方法を見付け出すことが望ましいです。
・レモンや梅干しなどは実際科学的根拠があり、迷走神経に新しい刺激を与えることで脳へ焦点を酸味に切り替えてください、というシグナルを送ります。
・息を止めたり紙袋をあてることも根拠があります。
血中の二酸化炭素濃度が上昇することで横隔膜の痙攣が抑制されることがわかっています。
驚かす、というのも一瞬呼吸が止まるので息を止めるのと同様の効果がある可能性もありますね。
・胸を抑えるのも横隔膜を圧迫し痙攣を物理的に止める方法として有効性があります。うつ伏せに寝るとかして横隔膜が動かないよう大きな圧力をかけると効果的です。
・リラックスさせる、気を紛らす方法としてで捉えれば、なにかをするという行動自体にも意味はちゃんとあるので、こうしてみていくと、存外昔からある定説もやはり的外れとは限りませんね。
●推奨されている止め方
・『呼吸法』
横隔膜は呼吸することによって動くため、呼吸法は効果的といわれています。
まず、深く息を吐いて肺を空っぽにします。
次に、息をゆっくりと深く肺がパンパンになるまで1鼻から吸い、10秒ほど止めてから、ゆっくりと深く長く息を吐いてまた肺をからっぽにします。
これを二回行います。
軽度であればこの二回でおおむね治まります。
息を止めてる途中でしゃっくりがでてしまい息を漏らしてしまっても問題ありません。そのまま呼吸を止めてからゆっくり吐き出しましょう。
二回で治まらなくとも、数回続けてみましょう。
この呼吸法は病院でも医師や看護婦の観察の元、実際に用いられる手法です。
痙攣を止めるということは、一旦すべての動きを止めるということです。そのため、肺をパンパンにして横隔膜を縮めきってから息を止め、動きを制止させると効果的というわけです。
息を止めたりするのと同じですね。こちらのほうが確実性は高いです。
この方法はAED(除細動器)と似た発想ですね。
除細動とは心臓の痙攣を、心臓の動きごと一旦完全に止めることで細動を取り除き、心臓を再起動させ正常な動きに戻すという方法です。
似てますよね。
※ちなみに、私はいつもこの呼吸法で止めてます。
・耳をふさぐ『耳押し法』
両耳の穴に指を押し入れるだけです。
耳押し法がしゃっくりに効果的な理由は、しゃっくりの主な原因である『延髄』の興奮を落ち着かせることができるといわれています。 神経系をリラックスさせてしゃっくりを止める方法ですね。
※爪が長いと耳の皮膚を傷付けてしまいますので注意です。
人によりけりなので良い悪いはありませんが、私の場合はこの耳押し法は全然まるで効果ないです。これくらいじゃ私の神経はリラックスしないんでしょうね……
・舌を引っ張る
これも実際に病院で行われるちょっと辛いけど効果が高い手法です。
舌をガーゼなどでしっかり掴んで、舌を前方方向へ30秒ほど強く引っ張ります。
舌を引っ張ることで舌咽神経を刺激し、横隔膜の痙攣を正常な動きに戻すといわれています。
舌を強く引っ張るのは自分ではやりにくいので、一人で実践はしにくいかもしれませんね。
いずれの手法も、気を落ち着かせてリラックスして行うことで効果がより発揮されますので、心因性の場合では特に、慌てず、落ち着いて、リラックスして、まずはゆっくり深呼吸をしてみてから行いましょう。
病気が潜んでいるかも?怖いしゃっくり
度々繰り返されるしゃっくりや、長期間ずっと治まらない場合は、背景には様々な病気が隠れている可能性もあります。
しゃっくりには、3種類があります。
①吃逆発作
先に説明した48時間以内に治まるもの。通常よくあるしゃっくりですね。
②持続性吃逆
48時間以上〜1ヶ月以内に治まるもの。2日以上続くとかなり辛いです。
③難治性吃逆
1ヶ月以上続くもの。異常ですね。
②③は原因不明のこともありますが、恐ろしい病気が隠れている可能性も高いです。
考えられる原因としては、胃潰瘍や胃がんなど胃腸の病気、IBD、多発性硬化症、また頭の怪我や脳腫瘍によって中枢神経が刺激されている場合(視神経脊髄炎、多発性硬化症、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞など)、アルコール中毒や薬の副作用、などがあります。
また、過度のストレスや精神障害、睡眠障害など、精神的な原因が関わっている場合もあり、しゃっくりがあまりにも長く続く場合は、病院で診察を受ける必要があります。
たかが、しゃっくり、侮れませんね。
まとめ
思いの外長くなってしまいましたが、しゃっくりとは、なんらかの理由で呼吸をコントロールする神経が刺激され、横隔膜が痙攣を起こしてしまい起きる現象です。
【ビックリして、ギュッ!となって、ヒック!】
原因は様々ですが、通常起こるしゃっくりは、熱いものや冷たいものを食べたり飲んだり、急いで食べたりして刺激を与えてしまう場合や、暴飲暴食、喫煙、過度なストレスなどによって引き起こされます。
しゃっくりの止め方は、気持ちを落ち着かせてリラックスすることと、呼吸を止めるなどの刺激を与えて解消するなどがあります。
刺激によって引き起こされてるのに、また刺激を与えるの?という疑問があるかと思いますが、
ありていに言いますと最初の刺激でリズムは正気を失いバグってます。そこへ新たな違う刺激を与えることで正気に戻してあげる、という具合でしょうか。
様々な止め方を試しても治まらず、48時間を超えて続く場合は病気が潜んでいることもあるので、病院で診察を受けましょう。
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