無菌室と誤解される「陰圧室」って?陰圧・陽圧の違いを医療雑学として整理

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無菌室と誤解される「陰圧室」って?陰圧・陽圧の違いを医療雑学として整理

 

今回は前回コロナのお話をしましたので、ちょっと変化球な、コロナ禍当時話題になった用語、健康や医療というより、ちょっと物理的なお話です。

新型コロナウイルスが大きく流行していた頃、ニュースなどでよく耳にした言葉の一つに、

「陰圧室(いんあつしつ)」

というのがあったと思います。

感染症の患者さんを隔離する特別な病室、というイメージから、

「陰圧室って、いわゆる無菌室でしょ?」

と思っている方もいるかもしれません。

でも、実は少し違います。

陰圧室は、基本的には病室の中にある空気を外へ漏らしにくくするための部屋。

一方、一般に「無菌室」と呼ばれるような治療環境では、むしろ外の空気を中へ入りにくくする陽圧が使われます。

つまり、

陰圧は「中から外へ出さない」ため。
陽圧は「外から中へ入れない」ため。

同じ「隔離」に見えても、守りたい方向が逆なんですね。

今回は、医療雑学としてこの2つの違いを簡単に整理してみたいと思います。

※実際の病室設備は、医療機関や対象となる病気、必要な感染対策によって異なります。この記事では、一般的な仕組みを理解するために簡略化して説明しています。

 

陰圧室とは?

まず「陰圧」とは、

『周囲よりも気圧が低い状態』

をいいます。

いきなり物理的なお話ですが、隔離部屋の肝はこの気圧にあります。

部屋の場合なら、

廊下など病室の外側
↓
病室の中

へ向かって空気が流れやすい状態です。

なぜそうなるのか。

空気は基本的に、

『圧力の高いところから低いところへ流れる』

からです。

陰圧室では、室内へ入れる空気よりも、室外へ排出する空気の量を多めにして、部屋の圧力を周囲よりわずかに低く保ちます。

すると、ドアなどにすき間があったとしても、

病室の空気が廊下へ流れ出るのではなく、

廊下側の空気が病室へ向かって流れる

ようになります。

これが陰圧室の一番重要なところです。

ありていに言えば、

部屋の空気を少し多めに外へ吸い出して、「空気の流れを内向きにしておく」部屋

というイメージですね。

陰圧室の仕組みを示す図。室外より室内の気圧を低くし、空気が外から内へ流れる様子を解説/ChatGPTで生成

もちろん、排気した空気を病原体ごとそのまま外へ出してよいわけではありません。

感染症指定医療機関などでは、病原体を外部へ拡散させないためのフィルターを備え、十分な換気ができ、陰圧制御が可能な構造などが求められています。

ですから、

患者さんから出た病原体を含む可能性のある空気を、病室の外へ不用意に広げない。

そのための仕組みが陰圧室です。

 

「排気し続けたら真空にならないの?」という疑問

ここ、ちょっと不思議に思いますよね?

室内からどんどん空気を外へ出しているなら、

「そのうち部屋の空気がなくなって真空になるんじゃないの?」

と思いますよね。

もちろん、そうはなりません。

排気した分だけ、給気設備やドアまわりなどから空気が入ってきます。

ただし、

出ていく量と入ってくる量を完全に同じにせず、排気側を少し多くする。

そうすることで、人体に影響するような極端な低圧ではなく、

周囲よりほんの少し低い圧力

を維持しています。

つまり陰圧室は、

「空気をなくしている部屋」

ではなく、

排気と給気のバランスを人工的に調整して、空気の流れる方向をコントロールしている部屋

なんですね。

 

陰圧室は「無菌室」ではない

ここが今回の一番大事なところです。

陰圧室は、

中の空気を外へ漏らしにくくする部屋

です。

ということは、逆に言えば、

外から病室の中へ空気が入ってくる方向になっています。

つまり、

「外から何も入ってこないクリーンな部屋」

ではありません。

陰圧室の目的は、

患者さんを外の環境から守ることより、病原体を周囲へ広げないこと

です。

感染症患者さんを隔離する病室として使われるのは、このためです。

たとえば感染症指定医療機関では、第一種病室などについて、内部の空気が外部へ漏れにくい構造、陰圧制御、十分な換気、病原体を外部へ拡散させない排気設備などが基準として設けられています。

なお、病室によっては前室を設けて、ドアの開閉による空気の流れをさらに管理します。

ただし、

すべての陰圧室に必ず前室や二重扉がある、というわけではありません。

そこは設備や用途によって違います。

 

では「陽圧室」は?

陽圧は、陰圧の逆です。

部屋の中の圧力を、周囲より高くする。

すると今度は、

病室の中
↓
廊下など外側

へ向かって空気が流れます。

作り方も基本的には逆で、排気する量よりも、

『室内へ送り込む空気の量を多めにする』

ことで陽圧状態を作ります。

ありていに言えば、

きれいにした空気を多めに部屋へ入れて、外から空気が入り込めないよう押し返している

ようなイメージです。

陽圧室の仕組みを示す図。室内の気圧を高くし、空気が内から外へ流れる様子を解説/ChatGPTで生成

これなら、

廊下側にあるホコリや微生物を含んだ空気が、病室へ入りにくくなります。

つまり陽圧室では、

外の環境から部屋の中を守る

ことが目的になります。

 

「無菌室=陽圧室」で覚えていい?

一般向けのイメージとしてはおおむねはそれでいいかと思いますが、正確にはもう一段、徹底されています。

まず、

陰圧室=感染を外へ広げない部屋
陽圧室=外からの汚染を入れない部屋

とだけ覚えておけば、かなり分かりやすいと思います。これだけで混同は避けられますね。

そして、白血病の治療や造血幹細胞移植などで免疫機能が非常に低下している患者さんを感染から守るために使われる「無菌治療室」では、陽圧や高度な空気清浄設備が利用されます。

ただし、

「陽圧にしただけで無菌室になる」わけではありません。

ここですね、もう一段は。

無菌治療室では、

  • 空気の清浄度
  • 空調設備
  • フィルター
  • 気流

などを総合的に管理します。

厚生労働省の無菌治療室管理に関する基準でも、高い空気清浄度や層流方式の空調などが要件として定められています。

ですから、

「無菌室=ただの陽圧室」

ではなく、

「陽圧などを使って、外から汚染を入りにくくした高度な清浄環境」

これが本当の意味での無菌室になります。ちょっと細かいですがこの一段プラスの徹底が加えられている、くらいに考えるとよいと思います。

 

それと、これも大事です💡

名前も「無菌室」だからといって、

『文字通り微生物が一匹も存在しない完全な無菌空間』、

という意味でもありません。

 

結局、陰圧室と陽圧室は何が違う?

難しい換気設備の話を全部抜きにすると、これだけです。

陰圧室と陽圧室の違いを比較した図。陰圧室は外から内、陽圧室は内から外へ空気が流れる/ChatGPTで生成

陰圧室

感染症などで、

「中にあるものを外へ出したくない」

ときに使う。

空気の流れは、

外 → 中

患者さんから周囲を守る方向の隔離です。

 

一方、

陽圧室

免疫機能が著しく低下している患者さんなどで、

「外にあるものを中へ入れたくない」

ときに使う。

空気の流れは、

中 → 外

周囲の環境から患者さんを守る方向の隔離です。

昔の言葉でいえば、こちらは「逆隔離」と呼ばれることもあります。

要するに、

『何を何から守りたいのか』

が逆なんですね。

これさえ分かれば、換気量や気圧差の細かい数字まで覚える必要はありません。

 

コロナ禍で「陰圧室」がよく聞かれた理由

新型コロナウイルス感染症が流行した当初、感染患者さんを隔離する病室として「陰圧室」という言葉が広く知られるようになりました。

そのため、

「感染症患者が入る特別な部屋」

↓

「外から完全に隔離された部屋」

↓

「無菌室?」

とイメージがつながってしまった方もいたのだと思います。

でも実際には、

目的が逆です。

無菌治療室では、『外の病原体などから患者さんを守りたい』。

陰圧室では、『患者さん側にある病原体を周囲へ広げたくない』。

だから空気の流れも逆になります。

コロナ禍では、感染拡大を防ぐために、病原体を周囲へ広げないことを目標に様々な対策が打ち出されていたことは、記憶にあるかと思います。

その中でもより強い、広げないための方法が、陰圧室ですね。

しかし、COVID-19の診療では、陰圧室が使われることはありましたが、すべての患者に必須だったわけではありません。

厚生労働省の診療の手引きでも、診察室や入院病床は陰圧室が望ましいものの必須ではなく、十分な換気ができればよいとされていました。

ですから、

「コロナ患者=必ず陰圧室」

という理解も少し違います。それはちょっと極端です。

じゃあ、どういうときに、どんな患者さんを対象に、陰圧室を使うの?

と言いますと、ここは難しいので素人が判断できることではありませんが、感染が拡大化しないようにするためには、感染が確認された比較的早い段階で封じ込めをするのが望ましいことは想像できますね。

勿論、その限りではないかと思います。病院や厚生労働省の判断になりますね。

 

まとめ

陰圧室と陽圧室。

名前だけ聞くと、何だか難しそうですよね。

でも、仕組みの基本は意外と単純です。

空気は、

圧力の高いところから低いところへ流れる。

その性質を利用して、

空気がどちらへ流れるかをコントロールしています。

陰圧室では、

外 → 中

へ空気を流し、

病室の空気を周囲へ漏らしにくくする。

感染症などで、

周囲を守るための隔離

です。

陽圧室では、

中 → 外

へ空気を流し、

外の汚染された空気を病室へ入りにくくする。

免疫機能が非常に低下した患者さんなどを、

周囲の環境から守るための隔離

です。

ですから、

陰圧室=無菌室

ではありません。

一般に「無菌室」と呼ばれているような治療環境では、むしろ陽圧を利用し、高度な空気清浄設備などと組み合わせて患者さんを守ります。

ありていに言えば、

陰圧は「出さない」。
陽圧は「入れない」。

これだけ覚えておけば十分だと思います。

もちろん、日常生活で知らなくても特に困らない知識です。

でも、ニュースや医療の記事で、

「陰圧室」

「陽圧室」

「無菌治療室」

という言葉を見かけたとき、

「ああ、守る方向が逆なんだな」

と分かるだけでも、医療ニュースが少し読みやすくなるのではないでしょうか。

今回は、そんな医療雑学のお話でした。

個人的な趣味範疇からのオススメですが、感染拡大の様子がとてもリアルに描かれた映画『アウトブレイク』という作品が、すごく勉強にもなり、参考にもなります。

映画としても面白いので、興味がありましたらサブスクなどで観てみてください。

※映画は、映画ですからね。フィクションですよ。

 

参考:

この記事では、感染症病室の陰圧制御や排気設備について、厚生労働省の感染症指定医療機関に関する基準を参考にしています。

厚生労働省

「感染症指定医療機関の指定基準」

無菌治療室の空気清浄度や空調設備については、厚生労働省の診療報酬関連資料を参考にしています。

厚生労働省

「無菌治療室管理加算の見直し」

新型コロナウイルス感染症診療における陰圧室の位置づけについては、厚生労働省「COVID-19 診療の手引き」を参考にしています。

厚生労働省

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」

 

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