『IBDの根治へ(現在と将来的治療)』
誤解のないように予めお伝えしますが、IBDは現代医学では根治できません。
今回は、現在の最先端の治療から、将来的に根治ができる可能性と期待される治療のお話になります。
また、私自身経験のない治療で、勉強中の治療法なので不確かなところや間違いもあるかもしれません。
あくまでも参考として、「こういう治療法もあるんだ」程度に受け止めていただけたら幸いです。
現在のIBD治療
IBDは『消化管に発生する原因不明の慢性・再発性の炎症』が共通する病態であることから、これまで『炎症を抑え,制御する』ことを目標とした治療法の開発が進められてきました。
原因不明、そのため根治させる手段が見付かっていないので、『抑制・制御』という手段しかない、ということなんですね。
こうした治療法の開発の結果、現在の主流である抗TNF-α抗体製剤(レミケードなどの生物学的製剤)や免疫調整薬等の画期的な治療薬が登場し,重篤・難治な症例に対しても内科的治療の選択の幅が広がってきています。
カテゴリー『内科治療』のほうで詳しくお話していますが、お薬の選択肢もこの10年でとても増えました。
しかし、これらの治療はあくまでも抑制と制御であり、それも不完全なため、根治できる治療ではありません。
いずれも『治すお薬』ではない、対症療法ということを受け止めてください。
同様にIBDだけでなく多くの難病も抑制と制御をする治療であり、現代医学では残念ながら未だ根治することができません。
これが現在の治療になります。
そもそも、なんで根治できないの?
というところは原因に直結するので大変難しいのですが、原因がわからなければ根治もできませんよね。
しかし、すべての難病というわけではありませんが、一部の難病は遺伝子の異常が原因であることがわかっています。IBDも、遺伝子の異常が最も有力視されています。
遺伝子、つまるところ身体の設計図の誤り。
根治を目指すのであれば、この誤りのある設計図を正しい設計図に書き換える手術の必要があります。
そんなことは可能なのか?
当然、素人にわかるはずもありませんが、それでもパッと浮かびそうな方法として、
「たとえば『骨髄移植』なんかどう??」
なんて思い付くのではないかなと思います。
血液を作る骨髄を、誤りのない正しいものに置換しちゃえばいい。
勿論、ただでさえ適合率の低さや、拒絶反応もあり、免疫抑制剤を使っても上手くいくとは限らない苦しくて難しい治療法です。
果たしてIBDの場合そうした手段が適用されるのでしょうか。
IBDに骨髄移植は適応されるのか??
なんと!実際に行われています!!
乳幼児期に発症するIBDの中には、『原発性免疫不全症』という免疫機能の異常に関連して発症する腸炎が存在することが長い年月をかけ判明しました。しかし、近年の遺伝学的検査の進歩や様々な知識の集積によりますと、近年IBDの発症に関わる原発性免疫不全症の診断にいたる子どもたちが増えてきている傾向にあるそうです。そしてその中には、骨髄移植等の治療によって病気のコントロール、さらには治癒にまで至った患者さんもいます。
これを『完治』といえるのかはわかりませんし、術後の経過次第ですから根治したと確定されるまでには生涯を診続ける必要があり、長い年月がかかると思います。
※実際、『完治』したとされる公式な症例はありません。
大人の場合はどうなのか。そこはちょっとわかりませんが、しかしこの『骨髄移植しちゃえばイイ発想』自体は、的外れではないんです。
骨髄移植以外で設計図を書き換える治療法って、ある??
あるんです!
自分の細胞や他人の細胞を使って病気を治療する『細胞治療』というのがあります。この治療方法で使われる細胞として有望視されているのが『間葉系幹細胞(MSC)』です。
この治療の説明の前に、まず先に1つ、この用語を覚えておきましょう。それは『幹細胞』。
この用語は、きっとみなさんも見聞きしたことがあると思います。『iPS細胞』が広く知られた際に特番などで観た方もいるでしょう。
身体を形成している各細胞は『未分化幹細胞(まだ分化していない、なににでもなれる万能細胞)』から分化して、それぞれの役割である形作る『幹細胞(特定の細胞)』になります。そしてそのほとんどの分化した細胞は以後、別の細胞になることはなく、自分と同じ細胞を細胞分裂によって作り続けます。細胞一つ一つに自分の役割があって、それを死ぬまでやり続けるということですね。『幹細胞』とはその元となる細胞と思ってOKです。
粗っぽい流れでの説明になりますが、
腸管を作る幹細胞は、腸管しか作れない、他の細胞は作れない。
↓
その細胞がどうやら設計図に誤りのある細胞らしいので、それを正しい細胞に変えちゃえばいい。
↓
正しい幹細胞の移植をしよう。
ざっくりですがこんな観点から、現在までに試みられている治療法があります。
IBDの『幹細胞治療』
腸管粘膜の治癒(再生医療)として『造血幹細胞移植・間葉系幹細胞移』があり、これらは『幹細胞治療』と呼ばれています。
幹細胞による治療は、自身の骨髄から骨髄幹細胞や造血幹細胞を採取し、再び自身の体内に静脈投与する移植方法です。
具体的にどういう治療法?
IBD治療の主流は抗TNF-αや免疫抑制剤などにより『炎症を抑え、制御する』ことを目標としていますが、 とくに『粘膜治癒』にはこれらの既存の薬剤では限界があり、治癒達成率改善のためには他のアプローチが必要とされています。
そこで、これら薬剤の新しい治療法開発と並んで『細胞移植を用いた再生医療』として『腸上皮幹細胞移植』の治療開発が進められています。
現在行われている一般的な治療は対症療法であり、IBDを根治できる治療ではありません。
対し、『幹細胞治療』は変化してしまった神経細胞を正常な細胞に置き換えることができ、炎症反応も抑制する事から、根本的に病気を治療することができる治療法の1つとして期待されています。
また、静脈内投与である為、比較的簡易に行うこともできるので画期的な治療方法ですね。
※根治できる断言ではありません。まだ治療開発途上です。
『間葉系幹細胞(MSC)』の有効性
幹細胞治療の治療法開発にこれまで用いられてきた代表的な細胞は、『造血幹細胞』と『間葉系幹細胞(MSC)』の2つです。
そのうち、『間葉系幹細胞(MSC)』は炎症反応を調節することが出来る細胞で、そのため炎症性疾患を抑える役割を果たします。
また、間葉系幹細胞は免疫抑制をすることができ、自己抗原に対する耐性を維持する役割を担うT制御性細胞の数を増やし、免疫を調節します。また、間葉系幹細胞は様々な細胞や組織に分化することができるので、神経などを保護する事も出来ます。
※用語が難しいですよね。免疫の働きを抑制したり、色んな細胞に分化してくれるから治癒や保護ができる、ってくらいの認識で。
現在、世界中で間葉系幹細胞(MSC)による細胞治療についての臨床研究が進められています。
日本では、骨髄から採取したMSCが、白血病などで造血幹細胞移植を行った後の重い副作用(急性移植片対宿主病)に対する治療ですでに実用化されています。
IBDの幹細胞治療法の基盤技術としては、『体外で腸上皮幹細胞を培養・増幅する技術』、および『体外で増幅した腸上皮幹細胞を消化管内腔側より移植する技術』が日本の研究者により開発されました。
これまで『造血幹細胞移植』・『間葉系幹細胞移植』が試みられてきましたが、造血幹細胞移植の有効性については限界があることが示されつつある一方で、
『間葉系幹細胞移植』では、
- クローン病の炎症を抑える事が出来きた。
- 損傷した粘膜を回復することが出来きた。
- 小腸の透過性が低下し、腸バリア機能の回復が促進された。
- 免疫機能が改善された。
- 痔瘻が回復した。
など、クローン病の一定の局面における有効性が論文では実証されています。
ようするに、自分の誤りのある腸管の内側の上皮を作っている幹細胞(腸上皮幹細胞)をリフレッシュして正しい幹細胞にして、再びIBDの病変ある自分の身体に移植することで、健康な細胞に置換してより良い治癒・再生を試みる、というものですね。
このように、骨髄移植とまではいきませんが、一部分だけではありますが、『移植する』という治療も研究開発されているんですね。
実際のクローン病に対する幹細胞治療の治療の流れ
まだどこの病院でもやってるような治療ではありませんが、この治療を行っている病院は既にあります。
そうした病院では、幹細胞の採取は入院する事もなく、当日行うことが可能、だそうです。
大まかな流れとして、まず患者さんの骨髄を採取して、静脈に点滴で幹細胞を移植します。1回治療を行い、3か月後に治療効果を判定し、次回以降の治療を決定します。患者さんの病気の状況次第で臨機応変に対応するそうです。
まとめ
こうした部分的な移植が可能になってきている最先端医療。
他人の骨髄を移植するのではなく、自分の幹細胞を正しいものに書き換えて移植するこの治療法は、安全性も高くドナー待ちの必要もなく、静脈投与ができるため、比較的スマートに行えるのも強みですね。
こうした技術がより幅広い難病へ、そしてより安全かつ効率的な製造法が確立されれば、多くの難病がより効果的な治療ができるようになるのだと思います。
あらゆる異常の正常化。これが達成できれば根治することも可能になってくるのだと推察します。
私たちの未来は決して暗黒ではない、明るいのだと私は感じています。
えー、一生懸命頑張って要約して解説したつもりですが、素人なのでこのへんが限界です!これより詳細な難しいことはわかりません。すみません!
興味を持たれた方は主治医に質問してみてくださいませ。
⚠️最後に
『根治』について今回お話しましたが、現状の現実として
「クローン病は治るよ!!」
なんて誇張だったり、うそぶきたいわけでも決してありません。
「将来的には治るかもね!ネガティブになりすぎず未来に期待しよう!」
ということが言いたいだけです。
ここを誤解しないようお願い致します。
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