『IBDと歯科治療』
IBDの方々はすべからく歯科治療に難儀していることかと思います。私も発症してから何度もクリニックを変えざるを得ない事態がありました。先生に嫌がられますね。
なんでこんなに大変かな?
私たちIBDは歯科治療には慎重にならなければいけない場合が少なからずあります。
今回は、口内の普段の状態と、口内では普段どんなことが起きているのか、そしてIBDの場合の歯科治療が大変な理由、リスクなどにについてお話します。
誰も知ってる細菌だっぷりの口内
『赤ちゃんにキスすると虫歯菌が移るからNG』、なんて聞いたことありますよね。
口内はご存知の通り、人体でも特別、細菌の多い部位になります。
しっかりと歯磨きをする人でも1000~2000億個もの菌が存在し、あまり歯を磨かない人 でしたら4000〜6000億個。まったくといっていいほど普段ちゃんと歯磨きをしない人だったら驚異の 約1兆個も存在してます。
といっても、2→4→10って数字で言われてもピンときませんよね。とにかく物凄く多いということだけ覚えておいてください。
こんなたとえは抵抗あるかもですが、口のと肛門で比較するとどうかでしょう。汚い部位として連想しやすい肛門では、ウンチ1gに含まれる菌の数は約100万個程度です。
つまり、数で比較すると『口内の方が肛門よりも圧倒的に菌が多い』ということになります。
嫌な真実ですね・・・
唾液の効果について
口の中の汚れや細菌は唾液のもつ『自浄作用』によって洗い流されています。唾液は起きている間は自然に口内が潤うだけ分泌され、飲み込んで胃へ落ちてはまた分泌され、と繰り返しています。また口を動かしたり食事をしている間にも勿論たくさん分泌されています。
しかし、寝ている間は口を動かすこともないですし、体の機能ももちろん休んでいますので唾液の分泌も起きている時に比べて少なくなっています。
『起床直後、口が臭い』という人は多々いると思います、たいていそうでしょうけれど、この唾液分泌の減少が口内菌の増加へと繋がるため、朝は普段より口臭が強くなります。
致し方ないことなので寝起きの口臭が多少なりとも気になっても、過度に神経質になる必要はありません。みんなそうですから。
あんまりにも臭いが強い場合、虫歯や歯周病、あるいは濃栓(いわゆる『臭い玉』)であったり、まったく別の大病が潜んでいる場合もありますので病院で診察してもらいましょう。
口内と肛門の細菌の違い
実際のところ口内と肛門、どっちが汚いの?
先にお話しました通り、『細菌の数』は口の中の方が圧倒的多いですが、かといってイコール『口の中は便や肛門より汚い』というわけではありません。
というのも、口の中と肛門では存在する菌の種類が異なるからです。
比べて見てみましょう。
●口内:約700種類の口腔内常在菌(常に口の中にいる菌)
カンジダ菌や黄色ブドウ球菌、緑膿菌、肺炎桿菌(ばいきん)、インフルエンザ菌など、全身疾患の原因菌も含まれていて、免疫力の低下とともに増殖し、病気を引き起こすこともあります。
ただし、悪い菌ばかりではなく、乳酸菌などのいわゆる『善玉菌』も数の中に含まれています。
●肛門:100種類以上の大腸菌
中には下痢などを起こすものもありますが、実は大腸菌のほとんどが無害です。
病気を引き起こす細菌などは口腔内に多く、大腸菌は大腸に多い。
こうした違いからどちらの方が汚い!と断言することはできませんが、口内に菌が多く見られることは事実で、増殖することで虫歯や口臭の原因になるほか、顎骨骨髄炎などのリスクがあります。
口内の細菌と免疫の戦い
さて、口内にたくさんの種類の細菌が大量に存在していることがわかりましたが、こんなにたくさんいたらしょっちゅう病気になってしまう、と思いますよね。
ですが実際、そう簡単には病気になりません。
唾液の自浄作用、唾液を飲み込んで胃に細菌を落として胃酸で殺してる、こうした働きで予防されていますが、これだけではありません。
口腔内は、悪さをしようとする細菌と自己免疫が常に臨戦態勢であり、パワーバランスは拮抗したにらみ合いの状態で沈静安定しています。
つまり50:50の状態。
この安定したバランスが崩れると、戦いが勃発し炎症が起き、痛みが出たりします。
そして細菌が優勢になりますと歯肉炎などになります。逆に戦いが免疫が優勢の場合は歯肉炎などになりにくくなりますが、戦いすなわち炎症が起きれば痛みがでることに変わりはありません。
どちらが優位でも痛みが起きることがある、ということですね。
風邪などで『抗生物質を飲んだら歯が痛くなった』、という経験がある方もいるかと思います。抗生物質を飲むことで痛みがでる理由は、こういうことです。均衡が崩れ、戦いがはじまったということですね。
戦いがあるから痛みがでる、そこだけ覚えておいてください。
では、IBDの口腔内はどうか。
免疫疾患であるIBDは、合併症でお話しました通り、程度に違いはあれどお腹に限らず全身至るところで免疫の異常がみられます。過剰反応であったり、免疫力が低かったり、およそ正常には機能していません。
ですので基本的にIBDは口腔内の免疫も正常な働きをしていません。
これは口内炎ができやすいという特徴からもわかるかと思います。
免疫の働きが満足ではないため、口内の細菌との均衡は崩れやすく、また戦いには負けがちです。
加えて治療のためにステロイドや免疫抑制剤、生物学的製剤を使っていますので、免疫力そのものも低下しています。
そのため、IBDは口内の疾患にとてもなりやすいです。
IBDがなりやすい口内疾患
①口内炎、口唇炎
口内やのどに口内炎が多発したり、唇が大きく腫れることがあります。
もはや説明不用ですね。
②虫歯、歯周病
これが一番ネックかもしれません。
そもそも、免疫が正常に機能していない低い私たちは常時繰り広げられる口内細菌との戦いに劣勢で、虫歯や歯周病になりやすいです。
みなさんも長期入院で絶食してしっかり歯磨きをしているにも関わらず、虫歯になってしまったり、歯周病になってしまったという経験もあるかと思います。
食べてもいない、口内を綺麗にしてる、でも虫歯や歯周病になってしまう。
何故?という疑問にはやはり「免疫異常で基本的に負け戦だから」ということになりますね。
また、炎症を抑えるためのステロイド薬や免疫抑制薬による治療、これらの薬を長期間使用しているとさらに、虫歯になりやすく、とても歯周病が進行しやすい傾向にあります。
デフォルトの弱さに加えて治療薬の影響も強いため、歯科医院での定期的な歯のクリーニングなど、十分な予防処置が必要となります。
※私も、虫歯がないのが自慢でしたが発症して長期入院繰り返してるうちに虫歯増えまくりました。また常に完全には治らない歯肉炎があります・・・
③口腔カンジダ症
ステロイド薬や免疫抑制薬の影響により、口内にカビが繁殖する病気『口腔カンジダ症』を発症しやすくなります。
カンジダが繁殖すると、口の中がヒリヒリ痛む、食べ物を口にしたときに痛む(接触痛)、食べ物の味を感じにくい(味覚障害)などの症状があらわれます。抗生物質などのお薬の使用により治療する必要があります。
④抜歯、歯周外科手術、インプラント手術
危険度が非常に高い処置です。
ステロイド薬や免疫抑制薬による治療を受けているときは、抜歯、手術後に感染しやすかったり、傷の治りが遅い傾向があります。そのため、十分な感染予防などの処置が必要となります。
親不知を抜歯することは一番多いケースと思いますが、健常者の三倍以上、傷の治癒に時間がかかると思っててください。
また、重篤な感染症になってしまうリスクも高いです。『歯とは顎の骨にあるため』です。顎の骨に細菌が波及してしまうリスクがあるのです。
親不知は抜歯後の歯科での洗浄も、健常者のように二、三日では済みません。もっとずっと長期的に続けます。さらに抗生物質も健常者より長く服用することもあります。
徹底的に感染予防をしていても、腫れが酷く1ヶ月以上続く場合もあります。
歯科医師には持病のこと、治療薬のこと、しっかりと伝えた上で慎重に処置をしてもらいましょう。
インプラント手術に至っては、主治医も歯科医師も「ダメ!」ということが多いでしょう。
親不知でさえ、場合によってはクリニックでは抜歯できず、総合病院で慎重に行う場合があるくらいです、インプラントともなれば感染症のリスクは親不知の比ではありません。
傷口から神経へ、神経から周辺組織へと感染が広がると、最悪、『顎骨骨髄炎』などになってしまいます。血流が途絶えると骨壊死し、顎の一部を切除する手術が必要になる場合があります。
インプラント手術は、諦めましょう・・・
※私は三度の親不知抜歯のうち、一回は治療に苦戦し3ヶ月もかかりました。1ヶ月くらい顔パンパンに腫れました・・・
⑤顎骨壊死
ステロイド薬を長期間使用していると骨折のリスクが高まるため、骨粗鬆症の薬を使用することがあります。
骨粗鬆症の薬の中で、ビスホスホネート系薬剤、デノスマブ(ヒト型抗RANKLモノクローナル抗体製剤)を使用しているときに抜歯などの出血を伴う治療をおこなったり、合わない入れ歯を使用していたり、口内が汚れていると、顎の骨が細菌に感染し、腐ってしまう病気『顎骨壊死(がっこつえし)』を引き起こすことがあります。
顎骨壊死は、口の中で骨が露出し、強い痛みで食事が困難になる、歯が抜け落ちる、顎の皮膚に穴が開いて骨が露出してしまったり、膿がでるなどの症状があらわれます。
傷の治りが極端に悪く、口腔内は細菌だらけですので高確率で感染症になってしまい、このような大事に発展してしまうリスクが高いのです。
予防としては親不知と同様に洗浄と抗生物質になりますが、それでも顎骨壊死になってしまい重症だった場合は、手術で顎の一部を切除することになってしまいます。
主にこうした口内疾患があります。
怖いですね。歯の治療はあまりIBDと関係がないと思っている方も少なくありませんが、とても油断できません。関係はガッツリありますので、しっかりと歯磨きやマウスウォッシュ、歯間ブラシなどできつも清潔にすることと、定期的に歯科の検診に通い歯石を除去といったクリーニングをしたり、口内の状態をチェックするようにしましょう。
※私の奥歯が砕けたときの体験談はコチラ↓骨粗鬆症の薬も使っているので大変でした・・・
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