風邪に抗生物質は効かない?処方されにくい理由とウイルス・細菌の違い
みなさん、昔に比べて最近は風邪引いて病院を受診したときに、「風邪なのに抗生物質の処方を先生が渋ることが増えたなぁ」、なんて感じたことはありませんか?
これにはちゃんと理由があるんです。
患者自身、『風邪なんてもんは、引いたら抗生物質もらえばいいだけ、さっさと飲んで早く治す』
子供の頃から変わらず、なんの疑いも持たず、これまでずーっと同じ。
風邪程度のことに特別注意を払ったり、正しい知識を得ようなんて、あんまり思わない傾向があるのではないでしょうか?
きくらげの周囲ではそんな感じです。あくまでもきくらげの周囲では。
私たち患者サイドはそれくらい風邪に対する理解や意識が低い傾向があるので、『風邪の常識』の更新がされていないこともままありますが、医療サイドのほうでは昔とはかなり常識が変化しています。基本的に医師はむやみに抗生物質を処方しなくなっています。
それはなぜか?
昔に比べて抗生物質(抗菌薬)が処方されにくくなったのは、主に薬剤耐性菌(AMR)の増加を防ぐため、風邪などのウイルスには効かないことが広く知られたため、そして不必要な投与を減らす国際的な方針に変わったため、です。
とくに患者側が理解しておくべきことは、「風邪に抗生物質は効かない」と一律に言い切れるわけではなく、一般的な風邪の多くがウイルス性であり、その場合は抗生物質の対象にならない、というところです。
こういったことを掘り下げつつ、今回は風邪とはなにか?なぜ抗生物質を処方してもらえないことがあるのか?細菌性とウイルス性の違い、ガイドラインの厳格化など、患者サイドもきちんと正しく理解し常識を更新できるよう整理してみたいと思います。
※正確には、細菌に作用する薬を「抗菌薬」と呼びます。本記事では馴染みやすさを考え、主に「抗生物質」と表記します。
※長いので1番下の『まとめ』だけでも大丈夫です。
抗生物質が処方されにくくなった主な理由は5つ
抗生物質が処方されにくくなった理由には、効果、耐性菌、副作用、腸内細菌、保険適応。主にこの5つが挙げられます。
順に整理していきますね。
いわゆる『風邪』の症状のおさらい
症状:くしゃみ、鼻水、鼻詰まり、喉の痛み、咳、発熱、頭痛、倦怠感、関節痛など。嘔吐や下痢といった胃腸症状を伴うこともあります。
『風邪』とは、とくに鼻や喉など呼吸器でおこる急性の炎症の総称で、また俗称です。実は正式な病名でありません。
じゃあなんていうの?
正式には公的な医学的用語では『感冒』といい、症状によって診断名として『風邪症候群』、『上気道の急性炎症』、などの診断名(病名)がつきます。これらは『普通感冒』と医学的には呼ばれます。
その他、消化器のウイルス感染によって、嘔吐・下痢・腹痛など、腹部症状と上記の全身症をきたした状態を、『感冒性胃腸炎』いわゆる『お腹の風邪』などと呼ぶこともあります。
じゃあ『風邪』は?というと、こちらは一般的な社会通念上の俗称ですね。
少しややこしいですよね、風邪薬の市販の表記をよく見てみると、『総合感冒薬』と記載されていることが多いです。
『感冒薬』という言葉自体が義務なわけではなく、実は、国の承認基準で定められている効能・効果の正確な指定文字は「かぜの諸症状(のどの痛み、発熱…)の緩和」です。そのため、法律上は「かぜ薬」と書いても全く問題ありません。
その上で、製薬会社がパッケージに「総合感冒薬」や「感冒薬」と明記するのは、義務だからではなく、「公的な医療用語にすることで、これが医学的に正しく承認された医薬品(あるいは指定第2類医薬品など)である」という厳格さや信頼性を示すため、業界の慣習として使われてる、という整理が理解しやすいです。
まわりくどくなりましたが、一般人としては感冒でも風邪でも表現はどちらでも構いませんが、いずれにしても風邪っぽい症状の正体を見極めて病名をつける診断は医師のみが行うものであり、素人が『風邪』と決め付けてはいけないということと、風邪症状の原因が何であるかは医師でないとわからないのだということは理解しましょう。
※決め付けて軽くみて医療を受診しないことで、思わぬ病気を見落としてしまう恐れがあります。症状が酷い場合・続く場合は医療を受診しましょう。
抗生物質が処方されにくくなった理由①効果について
※おそらくこれが一番大きな理由
効果?効かないことがあるの?
あるんです!
風邪の原因はそもそも多くがウイルス性だから。
風邪の原因の多くはウイルス性
多くの方が誤認識してることかと思いますが、実は風邪症状の原因は、細菌性ではなくウイルス性であることのほうが多いのです。
※細菌やマイコプラズマ、クラミジアといった『病原微生物』。
わかりやすく『細菌』と、この場では呼び説明します。
・割合にして、細菌(10~20%):ウイルス(70~80%)
数字でみる印象としては、ほとんどがウイルス性、と感じるでしょう。
そしてウイルスには、抗生物質はまったく効果がありません。
ここできちんと整理しますと、抗生物質とは俗称で、正確には医学的なは『抗菌薬』と呼ばれます。こうして字面でみれば『菌』に作用するお薬なんだな、ということがわかるかと思います。
これが安易に抗生物質を処方しない理由です。
風邪症状の原因が細菌性であるかウイルス性であるか、その判断は医師しかできません。なので、
「風邪なのになんで抗生剤を処方してくれないんですか!?」
「あの医者おかしくない??」
と、素人判断してはいけません。
※ウイルス性の風邪でも、細菌感染を併発している場合には抗生物質は処方されます。
そして風邪症状のほとんどは、ウイルスによる『上気道感染(上気道炎)』です。そう、ウイルス性の風邪症候群。
※昔、コナンくんで、喉の調子が悪いコナンくんの喉を灰原さんが「診てあげる」→「上気道炎ね」と言ったら「ようはただの風邪じゃねぇか!」みたいなやり取りがあったのをなんとなく覚えてる。さっすがコナンくんですね。
風邪を引き起こすウイルスはなんと400種類以上もあるそうです。
とくに『パラインフルエンザウイルス』、『ライノウイルス』などが代表的ですが(覚えなくてOK)、それぞれのウイルスが様々な型を持っており、それでいて400種類以上ものウイルスが風邪の原因となりますと、何度も風邪を引いてしまうのも頷けますね……。
何度も引いてしまうことがある夏風邪
夏風邪は『エコーウイルス』や『コクサッキーウイルス』などが多くの原因ですが(これも覚えなくてOK)、やはり原因となるウイルスは膨大で、そのため何度も同じような夏風邪にかかってしまいます。
特に、子供が繰り返しやすいですよね。これは、集団生活を始めたばかりの子供たち(お家からあまり外へ出ることがない、幼稚園に入る頃、3歳あたり)は、それまで家にいることが多く家族以外との接触も少なく、あまり風邪のウイルスにさらされていなかったところに、多くの子供たちと一緒に過ごすことで様々なウイルスを互いに持ち寄ってしまい、風邪ウイルスをお互いにもらい合い、風邪を繰り返してしまいます。
これがいわゆる『知恵熱』です。
知恵熱のことを『頭の使いすぎで発熱する』もの、と間違えて覚えている方も少なくないのですが、知恵熱とは『知恵がついてくる年の頃によく出る熱』で、発熱の理由は集団生活で様々なウイルスにさらされることによる、ですね。
ウイルス性の風邪症状の特効薬
残念ながらありません。あるのは、インフルエンザ(風邪症状→医師がインフルエンザを疑い→検査によって特定)の特効薬くらいです。
そのため、ウイルスに対して無効な抗生物質は処方してくれません。
風邪に対しての二次細菌感染予防のための抗菌薬投与も無効であることがわかっています。ようは抗生物質飲んでても風邪予防なはならない。
昔は普通だった、『なんだかよくわからないけど風邪っぽいときは抗生物質』、というのは意味があまりない、ということですね。治療にも予防にも望ましいとはいえない。
こうした大雑把な処方をやめる方向へガイドラインが厳格化されました。
じゃあなんなら抗生物質を処方してくれるの?
医師による診断で明らかに細菌感染が疑われる場合に抗生物質が必要になります。
たとえば、(私は医師ではないので完全に正確とはいえませんが先生から聞いている限りでは)素人でもある程度わかりやすい1つの目安が『膿』です。
※目安は目安ではあってこれで確定というわけでは決してありません。
喉が痛いだけの場合はウイルス性のことが多いですが、症状がそれだけじゃなく、喉が赤く腫れたり、膿のようなものがついていたりすると、溶連菌などの化膿性の咽頭炎や扁桃炎が疑われます。かなり辛いやつです。
また、細菌による気管支炎や肺炎なども抗生物質が必要になります。
最初はおそらくウイルス性の風邪だったものが、長引いて、痰などを上手く吐き出せずに気管支や肺に留まってしまうことで細菌感染が起こります。痰の中には細菌だらけですからね。これを『二次感染』といいます。
※細菌による二次感染に抗生物質は有効ですが、二次感染予防として抗生物質は前述の通り無効です。
黄色い鼻水や痰は、溜まらないようにしっかり排出することが肝要ですね。
子供の場合でわかりやすいのは中耳炎など。その他に、とくに外見的に異変は見当たらないけど非常に具合が悪い、そんなときは尿道から感染する『尿路感染』が疑われます。子供や女性はなりやすいですね。
最も危険なのは、血液中に細菌が入り込んでしまう『菌血症』。これになりますと急速に症状が悪化し、『髄膜炎』を引き起こしてしまう恐れがあります。命に関わります。
私たちは入院中に抹消静脈栄養やCV(中心静脈栄養)を行います。針をつたって細菌が侵入しやすい傾向にあります。
加えて高熱や低体重:低栄養で体力も落ち、免疫力も極端に低下している場合、こうした感染症のリスクが高まりますので要注意ですね。
※注意するのは医療スタッフ側ですが。自分ではどうしようもない……
花粉症などアレルギー性の鼻炎でも風邪症状になる
くしゃみ、鼻水、鼻詰まり、という風邪症状は花粉症とよく似ていますよね。花粉症なども症状が酷ければ頭痛や倦怠感も伴いますし、微熱が出ることもあります。
風邪か花粉症かの判断は素人ではできません。
そのため、花粉症に加えて風邪ひいたかな?と思って受診をしても、やはり抗生物質は処方されず、抗アレルギー剤などの処方に留まることが多いです。
日本ではまだこうした風邪の常識は一般にあまり浸透していませんが、海外、特に欧米ではウイルス性風邪に抗生物質を処方しないことが常識となっているそうです。あちらでは風邪症状で医療機関を受診しても、解熱剤程度しか処方してもらえないそうです。
いずれにせよ、繰り返しますが診断は医師にしかできませんので自己判断は要注意です。
ウイルス性の場合、特効薬がないのならどうやって治すの?
⚠️ここがかなり重要⚠️
基本的には、『症状を和らげる薬+体力の回復』になります。古典にして基本、鉄則ですね。
ウイルス性の風邪には抗生剤は効果がないことはここまでご説明した通り。
抗生物質は効かない、ではウイルス性の特徴と治療は?といいますと、
まず、ウイルス性の風邪は、薬に頼らなくても自己免疫だけで自己完結しやすいのが特徴です。また、細菌性と違って、ウイルス性は一過性のものが多いので、ピークを過ぎれば比較的早く抜けやすいです。
そのため自分の免疫力で治りやすくなるようにケアをしていくことが治療の基本になります。
お薬としては、総合感冒薬の『PL顆粒』(炎症を抑え、発熱や喉の痛みを軽減し、鼻水を軽減し、自己免疫で回復しやすい状態にしてくれる)ですとか、喉の痛みに特に症状がある場合は『ペラックT錠』ですめさとか、痰を出しやすくする『ムコダイン』ですとか、咳を鎮める『メジコン』や『リン酸コデイン』ですとか、熱を下げる『カロナール』など。そして食事と水分と睡眠を十分にとることで体力の回復を助け、ウイルスを自己免疫で叩きましょう。
ここで注意⚠️
こういった総合感冒薬は、先にお話した通り、症状を緩和するお薬であって、抗生物質のように直接的にお薬の成分が原因に対しアプローチしてくれるわけではありません。
治すのはあくまでも自分の治癒力です。これらのお薬はそれをサポートしてくれるお薬と整理し、症状が酷い場合や続く場合はきちんと医療を受診しましょう。
抗生物質が処方されにくくなった理由②耐菌性
参考元:耐性菌について詳しくはコチラ↓
日本感染症学会/一般の方への情報提供:多剤耐性菌を正しく理解するためのQ&A
抗生物質が処方されにくくなった理由③副作用
抗生物質が処方されにくくなった理由④『腸内細菌叢』を壊してしまう
抗生物質は悪い細菌を攻撃する、だけではないのです。菌にはすべて攻撃します。なので、腸内の善玉菌も攻撃を受けてしまうのです。
※ココ、花粉症との因果関係も考えられています。
※抗生物質を服用しまくったら誰もがIBDになりやすい、というわけではありません。IBDの方は潜在的にIBDを発症する素因があります。発症の引き金になりうる可能性がある、ということで『原因』ではありません。
ちょっと耳慣れないお話ですが、抗生物質によって腸内細菌のバランスが崩れると、腸内の『クロストリジウム・ディフィシル菌』が優勢となり、増殖勢することがあります。この菌が増殖し産生する毒素により、『クロストリジウム・ディフィシル腸炎』を発症します。この腸炎は通常の薬では治りにくく、治療に難渋することが少なくありません。
抗生物質が処方されにくくなった理由⑤保険適応による処方にならず違法になる恐れがある
お薬を処方するには、医療機関は必ず病名を書いて「国民健康保険」や「社会保険」に請求する必要があるのですが、特殊なお薬を除いてたいていのお薬には「保険適応」というのが決められており、通常、抗生物質を処方するためには「気管支炎」や「肺炎」などの正式な病名が必要になります。
そのため、患者さんが強く抗生物質の処方を希望された場合、「気管支炎」など適した病名をつけなければならない、ということになるわけです。
おや?少し不穏な気がしてきましたね。正しい診断とはいえない、かも?


